アッシュの同調実験

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前回のアビリーンのパラドックスに続いて、今回は「アッシュの同調実験」について触れてみたいと思う。

「アッシュの同調実験」は、1951年のレポート(Asch, S.E. (1951). Effects of group pressure on the modification and distortion of judgments.)以来、条件を変えた追試験やそれらを含め活発な議論が行われてきたとても有名な実験なので、いまさら感はあるが、Scientific Americanの記事を参考に、ざっくり追ってみたいと思う。

出典:”Opinions and Social Pressure“, by Solomon E. Asch, 1995, Scientific American

正確に私たち自身の意見における他人の意見の効果は何か?
言い換えれば、社会的適合への衝動はどれほど強いのか?
この課題に、いくつかの独自の実験手段をつかって取り組む。
Exactly what is the effect of the opinions of others on our own?
In other words, how strong is the urge toward social conformity?
The question is approached by means of some unusual experiment
.

Opinions and Social Pressure, SE Asch – Scientific American, 1955

実験のあらまし

「視覚実験」の名目で、7−9人の学生が集められる。
被験者1人を除き、他はみんな「さくら」。

最初に1本の黒い線が付いた白いカードを見せられる。
2番目のカードから、被験者は最初のカードの行と同じ長さの行を選択するように求められる。
むずかしい課題ではない。
ふつうに考えれば、まちがう確率は1%もない。

席の順番に、一人づつ回答していく。
1回目も、2回目も、みんなが正解を言いあてる。
しかし3回目は、被験者にとって予期しない障害が発生する。
前の人たちが、そろって自分の思っているのとは違う回答をする。
それもそのはず、「さくら」は全員申し合わせた誤答を回答しているのだから。
(全部で18問、うち、12問にこの罠が仕組まれていた。)

「え?」

結果、
被験者は36.8%の確率で誤った回答に同調した。
約1/4の被験者は、最後まで自分の判断で回答した。
逆に一部の被験者は、ほぼ常に「さくら」の回答に同調した。

いくつも類似試験や追加試験が行われていて、つど条件や結果の数字は微妙に異なる。
これはその一例。

解釈

被験者の反応は、以下の3つに大別できる。
 A. まわりの意見を信じ、まわりに同調する
 B. まわりの意見を信じたふりをして、まわりに同調する
 C. 自分の判断を信じて、まわりに同調しない

なぜ同調してしまうのか?

A. 「私は間違っている、彼らは正しい」と思った。
一部の被験者は、実際そうであった。
人はそれぞれ自分で判断できるが、それは主観でしかないともいえる。
まわりの人からのフィードバックを得ることで、それが徐々に「確信」に変わっていく。
では、「答え合わせ」に失敗したとき、どちらを信用する?

B. 「みんなの結果を台無しにしない」ために譲歩した。
本気で信じたわけではいが、我を通したって意味がない。
ここは合わせておいたほうが無難だろう。
そんなふうに思ったオトナな人たち。

C.の「自分の判断を曲げない」人は、見ようによっては「空気の読めない人」である。
でも、C.な人が出てこなければ、アビリーン行きが決定である。

さて、思い出してほしい、この実験で課せられた課題はまわりの影響がなければ間違うはずもない簡単なものだったことを。
こんな真偽を間違いなく言い当てることができるような言説に対しても、人はまわりに合わせて違うことをいってみたり、ときにはまちがった言説を受け入れたりすることを示している。

これがもっと微妙な問題だったら?
直接真偽を確かめることができないような問題だったら?

多くの人が受け入れている(信じている)「常識」や「世論」も、その出どころをさぐれば、案外こんな同調作用により「結果的に」生み出されたものかもしれない。
さらに、意図的にある意見を広めようとする人がいれば、世論はその意見に誘導されるかもしれない。

The sociologist Gabriel Tarde summed it all up in the aphorism: 
“Social man is a somnambulist.”
「社会の中で人は夢遊病者です。」

Opinions and Social Pressure, SE Asch – Scientific American, 1955

おわりに

こうして文章として書きはじめると、いろいろ興味のある観点が頭をよぎってくるが、ひとまずこの辺で区切っておく。

関連Keyword:集団心理、同調現象、全会一致の幻想、自薦の用心棒、沈黙の螺旋、バンドワゴン効果

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